ビーム前期漫画振り返り第一弾!!【O村の漫画野郎#42】
- 文
- 奥村勝彦
- 公開日時
- 最終更新
秋田書店の漫画編集者を経て、元『コミックビーム』編集総長もつとめた“O村”こと奥村勝彦さんが漫画界の歴史&激動の編集者人生を独自の視点で振り返る!
ビーム前期漫画振り返り第一弾!!
あー。これからビームの前期に掲載された漫画を語ろうと思うが、あくまで俺の主観で選ぶしかないので、異論は多々あるんだろうけど勘弁してね。
●『イムリ』(三宅乱丈)
こないだ完結したが、ビームの最多巻数を誇る長編SFだ。ストーリーや設定のディティールまで、完璧に考え抜かれており、担当の岩井がどんな質問をしても、キチッとした答えが返って来たってんで舌を巻いてた。
俺が恐れてたのは「ちゃんと完結させれんのか?」ってことだった。だもんで完結したと聞いた時は、既に現場は離れていたけど心底ホッとした。正直、どこの雑誌も載せきる自信が無いだろうから、なかなかこんな腰の入ったSFはそうそう出来ねえだろうな。
乱丈さん本人はシャガレ声で、一見ガラッパチに見えるけど、無茶苦茶繊細な女性だ。でないとこんな漫画描けねえよなあ。非常な愛豚家で愛する豚さんのために一戸建てを購入し、大枚はたいて改装(もちろん豚さんのために)したってえからハンパじゃねえ。……素敵な話じゃねえか。
●『夜は千の眼を持つ』(上野顕太郎)
長期連載その2!! これもビームの草創期から続いたギャグ漫画で、よくもまあ、こんな長期間やったもんだなあ、とあきれるしかねえ。
それも軽いタッチとは真逆な作風というか、鬼のように手間のかかる作風でだ!! ほとんどマゾの世界だ!!
まあ、俺も俺なので担当でもないのに、「世界文学全集を8ページで描かねえ?」とか「単行本の4コマの最後だけ空けといて印刷してな。オチを全部変えて直筆で描き込んだら、本邦初全冊別オチだぜ!! どうよ?」などと言ったりしてた。
んで、2人で真剣に可能性を検討し、コリャ無理だという結論に至った。だが、まさにこれぞギャグ漫画の醍醐味!! 非常識こそ生きる道だ。
……なのでギャグ漫画家の消耗は激しい。それをデビュー以来、ずっとやり続けてるんだから、ウエケンさんは偉えやなあ。彼が真面目なギャグ漫画家と呼ばれる所以である。
●『砂ぼうず』(うすね正俊)
長期連載その3!! しかしまあ、編集者の前で「俺はカネのあるうちは、描かねえよ」と平気で言える古典落語の熊さん八っつあんみてえな人間が、よくもこんな長い間、ひとつのネタを描いちゃったもんである。
まあ、そういった性格が俺は好きなんであるが。腕はいいんだが、言う事を聞かねえ職人ってえ風情である。
物語に出てくる人物はあらかた無精で不服従。作者がそうなんだから仕方がない。そこが一番面白いんだよなあ。原稿の仕上げを手伝ってる彼のカミさんと俺で「もうちっと怠けねえで、早くやれよなー」と、うすねさんを一緒にケナすのが、とても楽しかった。
本人は「ひー、ごめんなさーい」つってんだから、しょうがねえよな。ただ、病院行くのを面倒臭がって、十二指腸潰瘍が破れちゃって、長期リタイアしたのが惜しいね。マジで死にかけたからなあ。いやはや、死んじまったらシャレになんねえって。
…あらら、スペースが尽きちゃった。次も前期を振り返るぜ!! 待て!! 次回!!
(次回は4月12日掲載予定です)
O村の漫画野郎 バックナンバー
イラスト/桜玉吉
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります